財務DX / Power BI Dashboard作成シリーズ
このシリーズを始める前に
財務インサイトカテゴリーでは、「どの数字を見るべきか」をテーマに、業界別KPIシリーズを展開しています。
製造業なら設備稼働率や在庫回転率、小売業なら在庫回転率や客単価、建設業なら工事利益率や受注残高など、経営判断に役立つ指標は業界によって異なります。
しかし、KPIの意味を理解するだけでは十分ではありません。実際の業務では、それらのKPIを継続的に収集し、可視化し、分析できる仕組みが必要になります。
そこで登場するのがPower BIです。
この財務DX / Power BI Dashboard作成シリーズでは、Power QueryとPower BIを使って、財務・経営管理担当者が自分でKPI Dashboardを構築できるようになることを目標に進めていきます。
なお、今回ご紹介するサンプルDashboardをそのまま完全再現することが、このシリーズの目的ではありません。
サンプルDashboardを完成形の一例としてご覧いただき、その考え方を参考にしながら、経営判断に役立つシンプルなKPI Dashboardを実際に作っていきます。
月次レポートに何時間かけていますか?
財務や経営管理の仕事をしていると、毎月のようにレポート作成が発生します。
各システムからデータをダウンロードして、Excelに貼り付け・集計し、グラフを更新して経営会議資料へ転記する。
以下は、月次レポート作成にかかる作業時間の一例です。
| 作業 | 目安時間 / 月 |
|---|---|
| データ収集・エクスポート | 1〜2時間 |
| Excelでの集計・加工 | 2〜3時間 |
| グラフ・表の更新 | 1〜2時間 |
| 確認・修正対応 | 2〜3時間 |
| 合計 | 6〜10時間 |
仮に月6〜10時間かかるとすると、年間では72〜120時間になります。
もちろん会社や業務内容によって異なりますが、レポート作成のためのデータ収集や集計、資料更新に、多くの時間を使っているケースは少なくありません。
サンプルDashboard(製造業)
まず、サンプルとして、製造業向けの財務・KPI Dashboardをご覧ください。
このDashboardでは、経営状況を把握するために、収益性・生産性・在庫・品質という4つの視点からKPIを確認できる構成にしています。
上段には、経営が継続的に確認すべき主要指標を配置しています。
- 営業利益率
- 設備稼働率
- 在庫回転率
- 不良率
それぞれについて、以下の情報をひと目で確認できるようにしています。
- 現在値
- 前年同期比
- 目標達成状況
このサンプルでは、設備稼働率や在庫回転率は目標を達成している一方、営業利益率は目標を下回っています。
この状況から、「生産効率は改善しているのに利益率が伸びないのはなぜか」という、次の分析につなげることができます。
このように、Dashboardの役割は、単に数字を並べることではありません。数字の変化に気付き、次に確認すべきポイントを見つけやすくすることです。
下段には、以下のグラフを配置しています。
- 売上高と営業利益率の推移
- ライン別設備稼働率
- 製品別在庫回転率
- ライン別不良率推移
また、Dashboardの一番上には、年とラインを切り替えるためのスライサーを配置しています。条件を変更することで、選択した期間やラインに関連するビジュアルを確認できます。
経営会議中に、経営層から「ライン2の稼働状況を見たい」「昨年の利益率を確認したい」といった依頼があった場合でも、その場で条件を切り替えて確認できます。
Power QueryとPower BIの役割
Power Queryは、データを取り込み、整形・変換するためのツールです。
CSVやExcelなどのデータを読み込み、テーブルの結合、不要列の削除、データ型の変更などの処理を行います。これらの変換手順はクエリとして保存されるため、データソースや更新方法を適切に設計しておけば、翌月に新しいデータが届いた際にも、同じ変換処理を繰り返し実行できます。
一方、Power BIは、データを可視化し、分析するためのツールです。
グラフや表、KPIカードなどを配置し、経営や現場が状況を把握し、意思決定しやすい形に整理します。
さらに、DAXという数式言語を使えば、KPIの計算や時系列分析などの計算ロジックを作成できます。
| 名称 | 役割 |
| Power Query | データ取込・変換 |
| Power BI | 可視化・分析 |
| DAX | KPI計算・分析ロジック |
Power BIを導入すると変わること
Power BIを活用すると、レポート作成業務の進め方を変えることができます。
これまでの仕事は、データ収集 → 集計 → グラフ作成 → 報告資料作成が中心でした。
一方、Power BIを活用すると、データ更新 → Dashboard確認 → 分析という流れに変えることができます。
単なる作業時間の削減だけではありません。
定型的なデータ収集や集計作業を効率化することで、財務担当者はレポートを作ることだけではなく、数字を解釈し、経営判断を支援することにより多くの時間を使えるようになります。
例えば、以下のような分析に、より多くの時間を使えるようになります。
- 利益率低下の要因分析
- 原価上昇の影響把握
- 在庫圧縮余地の検討
- 来期見通しのシナリオ分析
もちろん、Power BIを導入するだけで自動的にこうした状態になるわけではありません。
どのKPIを見るのか、どのデータを使うのか、どのようにDashboardを設計するのか。
こうした設計が重要になります。
このシリーズで学べること
このシリーズでは、製造業のサンプルDashboardを参考にしながら、経営判断に役立つシンプルなKPI Dashboardを実際に作成していきます。
サンプルとしてご紹介したDashboardには、複数のKPI、Slicer、DAXによる計算ロジックなど、ある程度の知識と経験が必要な機能も含まれています。
そのため、本シリーズではサンプルDashboardをそのまま完全再現するのではなく、以下のステップに沿って、できるだけシンプルなプロセスで、実務に役立つDashboardを構築することを目指します。
※各記事の内容や順番は、シリーズの進行に応じて変更する場合があります。
| 回 | 内容 |
| 【Vol.2】 | Power BI Desktopの基本と環境構築|Dashboard作成の第一歩 |
| 【Vol.3】 | Power QueryでCSVデータを取り込む|KPI計算の土台を作る |
| 【Vol.4】 | Power BI Calendarテーブルの作り方|リレーションとスタースキーマを完成 |
| 【Vol.5】 | Power BIのメジャー(DAX)とは|SUM・AVERAGE・DIVIDEで4つのKPIを作る |
| 【Vol.6】 | 前年同期比・目標達成状況を計算する|Power BI カードビジュアルのDAX Measureを作成 |
| 【Vol.7】 | スライサー・フィルターとビジュアル配置 |
| 【Vol.8】 | Dashboardデザイン |
| 【Vol.9】 | 共有と運用 |
業界別KPIシリーズで学ぶ「何を見るか」と、このシリーズで学ぶ「どう見せるか」を組み合わせることで、単にPower BIを操作するだけではなく、経営判断に役立つDashboardを自分で構築できるようになることを目指します。
よくある質問(FAQ)
1. Power BIは無料で使えますか?
Power BI Desktopは無料で利用できます。個人で学習したりDashboardを作成したりするだけであれば無料版で十分です。チームで共有する場合はPower BI Proなどのライセンスが必要になります。
2. Excelが使えれば、Power BIも使えますか?
はい。Power BIはExcelユーザーにとって比較的学びやすいツールです。特にPower QueryはExcelにも搭載されているため、データ加工の経験がある方であればスムーズに習得できます。
3. Power BIとExcelの違いは何ですか?
Excelは個別分析やデータ入力に適している一方、Power BIは大量データの集計・可視化・共有に強みがあります。Power BIはExcelの代替ではなく、Excelを補完するツールとして活用されることが一般的です。
4. 財務担当者がPower BIを学ぶメリットは何ですか?
Power BIを活用すると、レポート作成やデータ集計にかかる時間を削減できます。その結果、予実分析や収益性分析など、経営判断を支援する業務により多くの時間を使えるようになります。
5. Power BIではどのような財務KPIを可視化できますか?
売上高、営業利益率、予実差異、在庫回転率、設備稼働率、キャッシュフローなど、財務・経営管理で利用される多くのKPIを可視化できます。業界ごとの重要指標にも対応可能です。
まとめ
Power QueryとPower BIを活用すると、毎月繰り返しているレポート作成作業を大幅に効率化できます。
しかし、本当の価値は作業時間の削減ではありません。
財務担当者の役割はレポートを作ることではなく、数字の変化を読み取り、経営の意思決定を支援することです。
Power BIは、そのための時間を生み出すツールです。
次回予告
次回のVol.2では、Power BI Dashboardを作成する準備として、Power BI Desktopのインストール方法と基本的な画面構成を解説します。リボンやレポートキャンバスなど、これから何度も使うことになる主要パーツの役割を確認していきます。まずは環境を整えるところから、シリーズをスタートしましょう。

